代表理事 平成28年6月のごあいさつ

 この日本国史学会の講義を全部ホームページで公開することになりまして、4月からそういう試みをします。出来る限り、インターネットでこの講義を聞けるというふうにしたいと思っています。やはり若い方が非常に関心を持っていただく。わざわざここに来てくださらなくてもネットで聴けると言う状態にし、そしてまた同時にそれがこういう土曜日の忙しい時に来てくださらなくても聞けるという、それが本当に我々の考え方を広めるひとつの大きなきっかけにもなるだろうと期待しています。

 やはり非常に歴史そのものが戦後の歴史観で歪められている今、われわれのこの考え方が歴史教科書を改善する。そういう国家観をもった本来の日本の「国史」をもう一回再構築する、そういう使命があるわけです。そういう意味で最初から、ある意味で縄文時代よりも前から始めたいというふうに思っています。そういう日本のアイデンティティという問題あるいは『古事記』『日本書紀』に書かれていることが、これまで戦後たくさんの考古学的な発見とどのように結びつくかというような問題として『記紀』がもっている世界性、要するに日本の神話と言うものが世界の神話とどのように結合しているのかという問題。それがやはり日本人の世界性というか、あるいはアフリカから出発した人々がどのように日本にたどり着いたか、そういう問題と重ね重なり合っているわけです。

 今の歴史教科書は日中韓隷属史観、そして階級国家観で占められています。つまり常に貧富の差が出てきて、そして階級が出来上がって、常に争いがあるというようなことを前提として日本の国家を考える。日本には縄文からそういう戦いの論理はありません。西洋なんかが歴史上百数十回戦争をやっているという中で、日本は7回しか大きな戦争をしていないのです。これは比較をすれば良く分かりますが、非常に戦いを避ける、あるいは戦いをしないということが前提の国家です。

 戦争は出来るだけ避ける、しかし外からやってきた侵略には絶対に負けないという事をずっと貫いている。専守防衛といってもいいですが、こういう徹底した考え方を持っている。私は『日本史の5つの法則』という本を書いたのですが、その一つに専守防衛ということがあって、それは日本の空手の原理である。つまり攻めて来たら絶対に勝つ、しかしこっちから攻撃しないという大原則です。そういうことを伝えるのも、新しい歴史教科書を作るひとつの大きな原動力になったわけです。私たちの中から、新しい歴史を見る目を育てていくということなのです。

平成28年6月  当会代表理事/東北大学名誉教授 田中英道