代表理事 平成29年12月のごあいさつ

2017年12月9日収録分代表挨拶

 12月8日は真珠湾攻撃の日となるわけですけれども、最近の『ニューズウィーク』誌などを見ると、アメリカでもやはりあの戦争をどう見るかということについて改めて取り上げられています。これはコロンビア大学の先生が学生に聞いて、人々の記憶と歴史の違いをどう調整するか。つまり一般の方々はあの戦争について、やはり自分たちの記憶と戦争時の思いというものが、意外に戦後の作られた戦争観によって、侵食されてしまっているということです。それがあたかも自分の記憶のように思っているという方が多いのです。そうではなくて、我々は歴史を常にいろんな角度で考えるという態度をもたなくてはいけないのです。ここ3~40年、既成の戦後レジュームと言いますか、日本の”敗戦”ということばかりを強調することによって日本を否定する勢力が主流でした。『ニューズウィーク』やコロンビア大学もリベラルの代表のようなところがあるわけですが、このキャロル・グラック教授という方は戦後の歴史観をカルチュラルスタディーズ的に論じています。こういう手法そのものが日本の歴史と文化、あるいは伝統に馴染まないのです。日本の論理といいますか、日本の戦争というものの本来のあり方を考えて、日本人的な思考の中で日本の歴史観を取り戻さなければいけないということを考えるわけです。結局また日本を否定的に見るとか、日本が敗戦してアメリカの民主主義を学んだようにまことしやかに言うのとは違う発想を改めてもたなくてはいけません。日本の保守の歴史観というのは一体何なのかということを、一度『新しい日本史観の確立』(文芸館、平成17年)で書いて、私家版みたいな本であまり読まれなかったのですが、今改めて書いていますのでぜひ皆さんと共に議論したいと思っています。

 それからもうひとつ、トランプ大統領がイスラエルのエルサレムを首都として認定してあそこに大使館を持つということで「一斉に反対運動が起きている」と報じられていますけれども、これは我々のアメリカ観というのを見直すいい機会になったと思います。つまりユダヤの問題が、非常に大きくアメリカに影を落としている。娘婿のクシュナーもそうですが、要するにそういう問題をまるでアメリカ自体の問題のごとく日本側では論じています。発想の貧しさというか、今、ユダヤが完全にふたつに分かれているということを考えなくてはいけない。要するに『ニューヨークタイムズ』などが一斉にトランプを批判しているのも、実を言うとある意味で”グローバル・ユダヤ”だからなのです。論じている人もユダヤなのですけれども、それとまさに”シオニズム・ユダヤ”、つまりイスラエルの支持者であるユダヤグループというものがしっかりとアメリカに根付き始めている。だけど、そこからは言論が出てこない。結局シオニズムというのは何かという問題を提起して、そして「アメリカファーストか、イスラエルファーストか」というのがナショナリズムあるいはシオニズムの問題で、それをいかに国際社会の中で主張できるかという問題ですね。つまり今度は、保守の論理をどういう風に捉えるか。トランプ大統領というのはあたかも理論無き、ただ情動的に動いているように錯覚されていますけれども、そうではありません。完全に「アメリカシオニズム」と「ユダヤシオニズム」、「アメリカファースト」「アメリカナショナリズム」とは何かということを探っているわけです。そこでキリスト教が出てくるわけですけれども、それに対抗した安倍首相のひとつの見方として、この前伊勢神宮においてG7を行ったような日本の神道という話題を国際的に出すということを政治的に行っているわけです。「靖國問題」もそうで、そこに日本の、言うなればシオニズムがひとつの課題となってくるわけです。それを主張することによって、これまでのグローバリズム、マルキシズムの考え方でなぜ歴史問題は解決しないか。結局ただ互いに批判しあっているだけで、そこに新たな理論、新たな歴史認識を確立しようとする動きがまだまだ少ないからだということが分かるわけです。いつもそうやって疑問を投げかけあっているばかりで過ごしてることに対して、我々学者といいますか知識人は、そう簡単にそれを受け入れるわけにはゆかないと思います。日本国史学会がそういう意味でお役に立ちたいと思っています。

平成29年12月9日:当会代表理事/東北大学名誉教授 田中英道