代表理事 平成30年4月のごあいさつ

2018年4月28日収録分代表挨拶

 昨日は南北朝鮮の首脳会談がありまして、表面的には非常に和やかで、テレビで映し出される限りは成功したように言われていますけれども、やはりこの二つの国の非常にひどい現状というのを考えなければいけない。北のほうは核問題が突出していますけども、北そのものが国としてほとんど体をなしていない。独裁国家として、基本的には共産主義をまだ奉じているということが問題なのです。ですから、こういう国がまだあるということそのものも問題です。彼らは核それ自体に問題がなく、共産主義のためだと思っているいうこともあるわけです。結局こういうことで南の方がそれに引っかかってしまって、もしそれで統一するようなことがあれば、朝鮮にとってはまったくの悲劇になるわけです。ですからやはり、これは我々としても核の問題だけではないという事を再認識しなければなりません。

 それから歴史の問題で最近、『司馬遼太郎で学ぶ日本史』(NHK出版新書)という本を磯田道史さんが書いておられます。この方はテレビにもよく出ていて人気のある人なのですけれども、やはり特に司馬遼太郎の歴史観というのは、非常に重要な戦後の歴史観のひとつになっています。もともと司馬遼太郎というのは産経新聞の記者だったもんですから、非常にジャーナリズムで話題になって、朝日新聞も産経新聞もこの人を持ち上げて、戦後の歴史観が作られたようなものです。ご存じのように、明治は良いけれども昭和は悪いという。結局あの大東亜戦争というものを非常に否定的に見ている。彼は自分で体験したものですから、軍国主義の問題点ばかり指摘する。つまり陸軍が先行して、だから敗北したんだという事をしきりに言うわけです。そういう歴史観が非常にはやっている事に対して私はどう見ているかということをちょっと皆さんにお話ししたいんです。

 これは簡単に言うと、司馬遼太郎さんというのは、この磯田さんが評価しているように、日本人の中にいわゆる合理性のある人間がいたんだと。織田信長が合理的な人間の最初であると。この人は歴史を精神史的に見ず、あるいは宗教で見ず、非常に即物的に見る立場です。ですから、これまでの歴史の中にでてくる人間も合理性の有無という観点で捉える。そうすると、結局『坂の上の雲』で秋山兄弟を取り上げているわけですが、一方で大村益次郎なんかも取り上げて、やはり合理的だと言うのです。そして日本の陸軍を作ったと言っている。一方で、乃木希典大将を否定的に見る。乃木大将というのは、やはり戦争では非常に凡愚であって、結局最期は明治天皇に殉じるという形で亡くなっている。殉死されるわけですけれども、やはりそういう精神よりも合理性ということを言っている人が司馬遼太郎です。合理性なんていうと一見良いように聞こえますけれども、実を言うと司馬遼太郎というのは、彼自身も言っている通り、天皇のことを一度も論じていない。周りの事は言うけれども、日本の天皇の問題を、ほとんど司馬遼太郎は言わない。日本の核、日本のある意味で精神的な中核が何かという事を問わない。そして西洋的、あるいは近代的になっている日本を取り上げ、それで大東亜戦争というのはその合理性で負けたんだ、西洋そしてアメリカにそういう事で負けたんだということを主張します。

 これはちょっとおかしいです。やはりいちばん重要なのは、天皇が守られたという事です。天皇が戦争を始め、天皇が詔で終戦の詔勅を読まれた。そしてずっと続いているわけです。これは日本もアメリカもきちんと了解済みだった。そのことは私の研究にもありますが、あれは負けた戦争ではないのです。敗北、敗北と言ってはいけないんです。だって天皇が、今もちゃんとおられるわけですから。負けたということで戦後、日本は悪いんだという事ばかりを言うのはやはりおかしいです。

 戦後10年くらいは、みんな「終戦」と言っていたのです。ですが20年ぐらい経ったくらいからだんだん「敗戦」になってきて、今の若い方はみな「敗戦」と言って、それで日本人は駄目だという事ばかりを言う。これは明らかにWar Guilt Information programに引っかかっている。

 本日4月28日は、実を言うと終戦後の独立記念日です。結局あの占領が解かれた時に憲法改正をやり、あらゆる戦後処理をやっておけばよかったのです。残念ながら、そこで切り替えることができなかった。憲法だけではなくて、あらゆる体制が、あの時期に切り替えなかったことでそのまま続いてしまっているということが非常に大きな戦後の傷跡になっています。ですから憲法を作り直すという事をもちろんやるべきですけれども、やはりその他の問題もそこにあったわけで、新たな独立記念日を祝うべきだというのが私の考え方です。

 皆さんと共に、4月から新たな研究を学問的にやってゆきたいと思います。よろしくお願いいたします。

平成30年4月28日:当会代表理事/東北大学名誉教授 田中英道