代表理事 平成29年1月のごあいさつ

 今年はトランプが大統領になるということで、非常に世界が、色が変わったという感じがする方も多いと思います。これは、マスコミが十分に捉えていないし、日本の多くのジャーナリストや批評家が、まだトランプがどういう人なのか、あるいはどういう世界になっていくのかが分からないということによるものです。大統領選でトランプが勝つことを自分は予言していたというようなことを言う人はいますが、世界がどういう風に変わっていくか――これが本当はいちばん重要な問題なのですが――について考えるためには、歴史的な背景を分析していかなくてはいけないと思います。やはり、歴史をしっかりと捉えないと、今回のトランプの出現というのは分からないということです。

 基本的な筋としては、キッシンジャー――これは戦後の世界、特にアメリカを指導してきた人ですが――と、もう一人はブキャナンという人です。この二人がある意味で、戦後アメリカの保守あるいは現実をしっかりと見ていた人だろうと思います。あとの人たちはだいたいハーバード大学などの大学にいて、そういう狭い範囲でしか社会を見ていないわけです。実はリチャード・ローティというアメリカの学者が使っている言葉ですが、こうした大学左翼あるいは文化左翼という言葉が非常に重要なんです。毎日通っている大学の研究室――評論家は書斎ですが――そういう言論では、もう社会は見えないということを言っています。我々大学の研究者に対するものすごい批判であるわけですが、観念左翼すなわち基本的に戦後の左翼ユダヤ人学者がだいたいそういう言論を作り上げてきたわけです。そういう大学左翼・文化左翼といった左翼ユダヤ人に対して、いわゆる経済界あるいは実際の社会そのもので働いているユダヤ人、この分裂が今度のトランプを生み出しました。だから実を言うと、トランプもヒラリーも同じユダヤ人を背景にしているということです。このことが見えないと、トランプというのは何だか訳が分からないということになってしまう。やはりそこのところにキッシンジャーがはっきりメスを入れているわけで、この人の言論というのが非常に注目されるわけです。

 こういうことは、基本的に我々が西欧というものを実体験したうえでないとちょっと分からないところがあります。つまりユダヤ人問題というのも、そこにそういう人たちがいるということが見えてこないと――日本には一切出てきませんから――何も分かりません。日本人は基本的に、あまりにも旅行しすぎて、ただ旅行して帰ってくるだけなんです。そこで生活をする、そこで向こうの人々と闘う、あるいはそこで何か実体験するといった西洋体験が長くないと、分からないことがあるわけです。今の大学の留学制度でも、「一年行って帰ってきました」「サバティカルで帰ってきました」ということをやっている限りは、見えてきません。単なる“観光旅行”をしただけで帰ってくる学者が多い。そういう状況である限りは、いつまでたっても大学左翼・文化左翼。結局「文化」が彼らのターゲット、戦後左翼のターゲットであることは基本です。つまり労働者じゃないんです、経済界でもない。文化だけを握って、そこから人々の「疎外感」を与えるという。決してconfirmativeというか、肯定的なものではない。その辺も、もう一回考え直さなければいけないと思います。

 いずれにしても、日本国史学会がそういう問題について、批評界や一般のジャーナリズム、あるいはマスコミなんかとも違う、世界に対するじっくりとした考察を行っていく必要があるだろうと思っています。今年も皆さんと是非この学会を盛り上げてゆきたいと思います、よろしくお願いいたします。

平成29年1月  当会代表理事/東北大学名誉教授 田中英道