代表理事 平成28年9月のごあいさつ

 先月は皆さんご存知のように、8月8日に陛下のビデオメッセージがあり、8月15日の終戦という記念日があり、歴史というものが、我々が生きている時にそれを考えざるを得ません。個人的体験と同時にそれが公的な物というもの等を結び付ける――つまり、われわれは歴史というものを、常に書かれたもの、自分たちと違うものと考えがちですけれども、やはり我々自体が生きている現代というものがそこに連続していると同時に、そこに生きた人間が居るということです。そういうことを我々が常に考えていくということが歴史を考える上で非常に重要なことです。そして常にその考えを過去に及ぼしていくということです。ご先祖たちというか、我々の先人たちが、いかに我々と同じように思考して生きてきたかと考えことこそ、本当に歴史を考えることだろうと思います。
戦後の図式、イデオロギーで見てきたものではない「歴史」を我々が作っていくという必要が出てきています。これまでも言ってきましたように、20世紀というのはイデオロギーの世紀でした。特に左翼イデオロギー、社会主義イデオロギーの世紀。今もそういう、ある種の幻想で世界を見てゆく人たちが多いわけです。残念上ながら大学もそういう幻想をもっている人たちが多く、今それが崩壊しつつあるということはみなさんもお分かりになっているだろうと思います。
だとすれば、我々はどのように歴史を見ていくか。今回の天皇のご譲位の話というのはそういう意味では非常に重大で、雑誌『Will』にも少し書いたのですけれども、参議院議員選挙で安倍自民党が大勝して改憲派が3分の2をとるのが可能になった。3分の2を取った後に天皇陛下がこういうお話をなされたということが、実は大事なところです。お疲れになったというのは、もう2~3年前からお話があったわけですが、これから憲法を改正できますよという時点でご発表になったということです。
特に「象徴」という言葉をお使いになっていることも重要で、これは実は戦後憲法で初めて出できたといってもいい訳です。戦後の天皇の地位については、1942年のOSS文書で最初に”symbol”と出てくる。やはりこうした文書についてもう少し研究しないと、「象徴」という言葉で天皇の御立場を規定したということ自体の意味が分かりません。このOSSの「日本計画」というのは、やはりどう見てもある種の分裂というか、いわゆる階級闘争で日本に亀裂を生じさせる。明らかに社会主義革命というもの狙っていることが分かります。当時のルーズベルト政権はニューディールという社会主義者的な政策で、思想的にソ連と非常に近かったことが明らかですから、そういう連中がどんどんGHQに入ってきた。さらにその前にOSS計画の関係者も、アメリカ共産党がほとんどを占めていた。ですから日本国憲法というものを、戦後なぜ共産党と社会党(現:社民党)が死守しようとしてきたか。つまりこの憲法は民主主義じゃなくて、社会主義に持ってゆく前段階だという意味があるからです。日本をそういう風に変えたいと思う者たちが、基本的に現憲法を支持している。「象徴」という言葉で天皇を軽く見させるための要素が、憲法の中にあるということなのです。
憲法9条にせよ、積極的にはそう示してないものの、戦後すぐに革命を起こすときに軍隊があったら困ると。戦争があったときに必ず革命起こすというのがレーニンの革命理論ですが、ところがその後、ハンガリー革命もドイツ革命も全部軍隊に簡単に潰されてしまいました。そこで革命遂行のための憲法という考え方がフランクフルト学派にあったというふうに考えないと、当時の社会主義理論と言うのは分かりません。これがコミンテルンの「32年テーゼ」の二段階革命で、とにかく戦後日本に革命を起こすということだったのです。「押しつけ憲法」というのは「社会主義者による押しつけ憲法」だったということを忘れてはなりません。

平成28年9月  当会代表理事/東北大学名誉教授 田中英道