代表理事 平成28年12月のごあいさつ

 12月が来ると、真珠湾攻撃の問題が常に我々の脳裏に浮かんできます。ところが、それをどう考えるかということは、いまだにはっきり決着がついていません。ご存じのように、オバマ大統領が政治的なアクションとして広島まで来られました。平和外交といいますか、日本とアメリカの対話をより広げようという意図が非常に見えて、今度は安倍首相とオバマ大統領がハワイに行かれる。現代史を考える上でこの問題は重要で、つまり我々が仕掛けたのか、向こうが仕掛けたのか。今まではだいたい日本が、軍国主義が悪いんだということが流布してきたんですが、喧嘩両成敗だというような論調が今出始めています。同時に私たちが、これまでの日本の戦争とは結局何だったかということを考えると、やはり日本人から仕掛けるということはちょっと考えられないわけです。

 たとえば元寇なんていうあの大戦争でも、モンゴル軍が来たから戦ったんです。日清戦争にしろ、日露戦争にしろ、やはり待ち構えて戦っています。日露戦争にいたっては、向こうはバルチック艦隊が遠くヨーロッパから回ってきて初めて日本海の対馬周辺で戦ったわけです。日本がバルト海まで、ヨーロッパまで攻めていくということは一度もしていません。日清戦争にしても、これは明らかに朝鮮問題が中心であって、わざわざ清国を叩くために戦争やっているのではありません。日本側から叩くということは、それまでしたことがないのです。ちょっと自己宣伝になりますが、このたび『日本の戦争 何が真実なのか』(育鵬社)というのを出版しました。これまでの日本の対外戦争とは一体どういうものだったかということを調べて、やはりそこで日本というものが、戦争をどういうふうに考えていたかと歴史的に把握してみようと考えたわけです。

 一方的なものではなくて、必ずどちらかが仕掛けて、相手が応じるという関係の中で考えざるを得なくなってきている。そして前にも述べたOSS計画では、最初から天皇をターゲットにしないということを考えていますから、このことが一体どういうことなのかということを新しい資料でもって考えなくてはいけないわけです。これまでの日本の戦争のあり方と、今回のあり方は、決して違うはずがないと思っています。

 それから原爆について、決して昭和20年7月の終わりになって決めたのではなくて、その一年前すでにチャーチルとスターリンとルーズベルトが決めていたということも、新しい文書で分かってきています。今回の安倍―オバマ会談に際して、やはりそのことを我々が歴史的に、学問的に考えるというのが大事なことだろうと思います。

 昭和天皇が最後に仰せられたように「終戦の詔勅」であって、決して「敗戦の詔勅」ではないということです。そういう意味でも、やはり基本的にアメリカが仕掛けた戦争であるということを、われわれは肝に銘じて歴史を分析しなければなりません。トランプ現象もある今、本当にあらゆる20世紀的な、ある種の左翼的なタブーが解けて、我々が改めて考え直さなくてはいけない時期が来ています。日本国史学会としても、決して元に戻るではなくて、新しい資料から新しい歴史を考え直していかなくてはいけない。そういう使命を、ある意味で帯びているのだろうと思います。皆さんと共に、それをやっていきたいと思います。

平成28年12月  当会代表理事/東北大学名誉教授 田中英道