代表理事 平成29年2月のごあいさつ

トランプ問題と日本

この頃トランプ問題、もう一つは金正男の事件もありますけれども、やはりトランプが政権を取ってから世の中は非常に面白くなってきたということが言えます。つまり、これまでの20世紀のある種のイデオロギーが消えていくということが、はっきり出てきました。リベラル・イデオロギーというか、要するに左翼がほとんど社会主義的なものを喪失してリベラルだけが残ったわけです。けれども、リベラルもまた非常に動揺して――私はこの次『リベラルという破壊主義者』という刺激的なタイトルの本を書くつもりなんですけども――やはりそういうところが、最後の砦みたいになってきました。今、トランプ大統領批判を一生懸命やっていますけれども、それも非常に危うい状況になっている。だから総崩れになってきているということが分かるわけです。しかし既成の権威というか、既成のマスコミ、既成の出版界をまだ牛耳っている感があって、これからは少し変わってくるべきだろうと。

 私は最近、中山恭子さん(日本のこころ代表)とチャンネル桜の番組で対談しました。トランプ大統領がとにかく当選してすぐ安倍首相と会って、最初に会った海外の首相であったこと。それから今回二日間も安倍首相と付き合っているということが、あたかも単なる日本の追従外交みたいな事を相変わらず言う人もいるし、それから基本的にいちばん近い日本との同盟国として会ったというような短絡的な評価しかできない方が多いです。実を言うと私は、トランプ大統領が決して単なるビジネスマンの政治家ではなくて、20世紀に対するかなり思想的な反省と、21世紀に対する責任を持っている政治家として見ることができると思います。

 やはりブキャナンという共和党の評論家――大統領選挙にも立候補したことがある人ですけども――この人の本を読めば、フランクルト学派が完全に否定されています。つまり20世紀イデオロギーというのはほとんどフランクルト学派であって、これが発祥はドイツですが、アメリカが基本的にほとんど染まっています。コロンビア大学、ハーバード大学、みんなそういうところで、いわゆる文化左翼に基点を置いているわけです。私が文化を基本的に大事だというのはそこであって、政治あるいは経済史からの観点だけでトランプを論じてはいけないと思います。文化についてなぜ言うかというと、安倍首相は去年のG7を伊勢志摩でやって、結局マスコミが志摩半島の海辺での並びの姿ばかりを映します。けれども、実を言うと伊勢神宮の前で7人並んで写真を撮っている。その写真が非常に重要なのであって、世界を伊勢神宮化するというと語弊がありますけれども、神道が素晴らしいんだという事を平気で言う首相が出てきたということです。ですから、プーチンが3時間遅れてきた時に彼はどこ行っているかというと、お墓参りをしている。山口にいたからか、そういう祖先崇拝あるいは神道に対する敬意というものが安倍さんには備わっているわけで、それが靖国参拝をした理由でもあるし、必ず供物を届けている。

 今では「建国記念の日」なんて言ってますが、紀元節の2月11日に私はこの学会の事務局長と一緒に橿原神宮の紀元祭に参列してきました。やはり素晴らしい勅使が来られて、随員が御幣物を担がれて、非常に素晴らしい祭事を見ることができた。それから巫女の舞――素晴らしい舞があって、基本的に伝統と文化がしっかり継続されているということ。戦後は「政教分離」なんて言われてますけれども、粛々とそういう伝統と文化が続いていて、そうしたものを精神的に共有すること、それが文化なんです。ですから安倍首相のような政治家が体現していることと裏腹に、近代化あるいは政教分離ということが多くの日本人の身に付いてしまって、皆さん自体が変えないといけないということなんです。ですから政治的に保守だと称している人が、生活が全く左翼と同じような、伝統文化を切ってしまっているような生活をしていること自体がおかしいわけで、その辺も我々の戦後の問題というのが大きくあるわけです。

 そういうことに我々もちゃんと参画していくことによって、文化というものを歴史の中心に置いていく。そして政治とかお金の問題とか争いばかりが「歴史」だと思い込んでいるところを、変えていくのが重要です。トランプ大統領がそこまで自覚しているか分かりませんが、やはり安倍首相を呼んだ。『ニューヨークタイムス』も『ワシントンポスト』も安倍首相が最右翼で、保守のガチガチであるかのような報道ばかりしています。そういう人を最初に呼んだ彼も、ものすごく勇気があるわけです。勇気というか、それが当然だということでしょう。それと娘婿のクシュナーという人がユダヤ正教徒であるわけで、娘もユダヤ正教徒になる。これによって、この間もイスラエルのネタニヤフ首相がやってきて、そちらとの同盟も非常に強いわけです。ここはちょっと問題になると私は思っているんですけれども、しかしイスラエル第一主義とアメリカ第一主義、そして安倍首相も常に日本第一主義で来たんだと認識されている。ですから日本は実にうまくやる、経済的にもですね。そういう認識をトランプ大統領ももっている。それを見習いたいということで、今回もアメリカが貿易赤字になっている中国やメキシコが批判されましたが、日本が除外されているということです。これも安倍外交として、なかなか成功していると思います。
そういう意味でトランプ大統領が伝統と文化を主張する中で――アメリカの場合は200年ですから文化といっても浅いので、そんなに強く言えないわけですけども、日本の安倍首相はそういうことをやっているということですね。私たちはそれを支持していくと同時に、我々の日本の歴史と文化というものを再認識していくということ。これこそ非常に重要な、我々に課せられた課題です。学者がそれをできないようでは、政治家がそういうものを使うわけにもいかないし、今のままでは基礎がないわけですから、やはりそれを是非学会に集う皆さんと共に今後もやっていきたいと思っています。 

平成29年2月  当会代表理事/東北大学名誉教授 田中英道