代表理事 平成29年7月のごあいさつ

 ハンブルグ(ドイツ)のG20で、トランプはもちろん安倍首相をはじめ30人の首脳たちが集まっていました。おそらく誰も北朝鮮問題というものの実態が分からないという状況で、ICBM(大陸間弾道ミサイル)を使って、アメリカを威嚇していますが、果たして、それをやるだけの気があるのか、能力があるのか、本当に戦争をやる気があるのか分からないまま袋小路に入っています。彼らを奇妙な独裁国と見、全体像がわからないままです。重要なのは、あの国が実は「共産主義」を気取ているの国だという事をみな忘れてしまっている。「偉大な」祖父・金正日像を崇拝し、「坊や」金正恩が信じているのは、「主体思想」の「共産主義」なのです。その格好は、人民を導いているつもりのレーニンを気取っているのす。独裁政権で、暴力によって対立者を必ず殺すということであって、その問題が20世紀の最大の問題だったのです。つまり暴力革命の国なのです。武器を使った暴力革命でいくらでも世界は変えられると本気で考えています。「暴力を使うことが良いのだ」ということですね。今年は、ロシア革命からちょうど100年です。ソ連共産党が妄想したのは、暴力革命でした。いわゆる階級闘争によって支配者を倒すということが、レーニンの革命運動がマルクス主義によって裏付けられていると称して考えられてきたわけです。しかし共産主義の理想は到底無理だとわかって、結局はそこで残ったものは、「暴力」なのです。暴力で世界支配しているアメリカを威嚇し、暴力で人民を統制するのです。世界の中で、奇妙なことに、唯一「レーニン思想」を実行しているつもりなのは、北朝鮮だけです。ソ連が崩壊したことなど忘れ、チュチェの主体思想をまだ信仰しているのです。共産党一党独裁、金正恩の恐怖政治をまだ続けているのです。その国からミサイルという「暴力」で脅迫されている、アメリカ・トランプ政権が、どう出るかにかかっています。経済問題で、中国批判を棚上げにして、その指導を習近平に言いつけました。しかし習近平はどこ吹く風で、何の経済制裁をしていません。

 トランプは、中国は経済大国で北朝鮮と違うと思っているようですが、共産党一党独裁は同じです。あわれにも、「ノーベル賞平和賞」の劉暁波はその犠牲になりました。暴力を平気で使うことを見過ごしていたのです。誤魔化されてきたわけで、中国も北朝鮮も同じような発想なのです。それで、ミサイルを飛ばした日に広場に人々を集めてお祝いをやっているというような共通な現象があります。これ自体がやはり異様な20世紀の暴力革命、つまり社会主義あるいは共産主義という亡霊が作り出したひとつの虚構であることを、否定しているのです。こういうものを目にしながら、G20は何もできないということです。誰もそこに仕掛けられない、つまり20世紀の亡霊の中にいる国と、そしてその亡霊をどうすることもできない国々が集まって、各国の利益だけを追求するという状態があるわけです。いま本当に、そういう意味では、両国に対しては、西欧諸国は袋小路に入っているということでしょう。ちょうど今から100年前にシュペングラーによって『西欧の没落』が書かれたわけですけども、あれはある種の歴史の終末と言う物を西欧に見ているわけです。

 しかし重要なのは、日本という国が西欧から生まれた「共産主義」という、ひとつの幻想とは域外にあるという自覚ですね。これはやはり、日本には左翼政党がほとんど壊滅している、ということでわかります。それはまた、キリスト教徒が1%もいないということと非常に強く結びついているのです。日本が一神教という幻想に囚われなかったことは非常に重要であって、一神教の思想的な問題・課題を考慮すれば、世界における日本の立ち位置は非常に重要になってくるのです。ですからそういう「共産主義国」と「キリスト教国」の争いに、巻き込まれてはいるけれども、基本的な態度は失なってはならないということです。それを我々がいかに堅持し、発展させていくか。まさに日本が世界的な意味でどう動くか、彼らとどういうふうに対峙した主張を示すことができるかという課題が我々に課せられています。残念ながら多くのマスコミ・メディア、学界もまだまだそういう20世紀の幻想、西洋の幻想にとらわれているという状況があるわけですけれども、我々はたとえ少数派であってもやはり「日本ファースト」に活路を見出す。そういう覚悟で、これからも学会活動をやっていきたいと思っているわけです。

平成29年7月  当会代表理事/東北大学名誉教授 田中英道