代表理事 平成29年10月のごあいさつ

国史連続講座 2017年10月14日収録分代表挨拶

 衆議院議員総選挙が、基本的に北朝鮮問題が基本であったことはみなさんもご存じの通りです。8月に内閣を改造して10月にまた選挙をやるという一見おかしな状況になっているという事は、これは明らかにトランプ大統領とのやりとりがあって、これは北朝鮮問題ですから当然、戦争が起これば日本も参加せざるを得ません。それと、拉致問題ももちろんあります。ただ日本人は、戦前のごとく国民皆兵で全体が巻き込まれないと戦争でないみたいな錯覚をしているようなので、みな戦争が起こる可能性をほとんど感じていません。と言いますか、マスコミもそういう調子ですから、そういう危機感がほとんどないわけです。ただ頭上を飛んでゆくミサイルを眺めているような感じを持っていますけれども、現在は軍隊というのは特化されて、自衛隊しか戦えないんです。一般の人はシェルターも準備がないから(憲法9条がそれを拒んできた)、何もすることが出来ない。それでも国家の問題ですから、国、民全体がそこに緊張感をもって応えなくてはいけない状況のはずです。しかし、マスコミも相変わらず左翼化していますから、ほとんど対応できていません。国家に順応できないままに、世間の人々も何かおかしな状態になっています。総選挙でも、希望の党みたいな訳の分からないグループが作られて、どういう風に北朝鮮問題に対処するか依然分からないという状態のまま来ているわけです。

 おそらくトランプが12月か来年初めに北朝鮮に戦争を仕掛けるだろうと思われますが、これはイランの問題とも対応しています。核兵器が非常に大きな問題としてありますから、アメリカはやらざるを得ない。つまり日韓が核をもつということを、北朝鮮がもっている以上は要求できるようになってしまうわけです。結局アメリカがイランを抑えるということもある意味連動していますから、今回の問題は日韓がいちばん危険な状態にあるわけです。日韓領内にあるアメリカの基地、それから自衛隊の基地がやはりいちばんの標的になるという危機感をもたないといけません。そして実際は自衛隊とアメリカ軍が準備していますから、マスコミが言わないにしても我々は察知していかなければならない問題であるわけです。ですから、今はある意味で戦後最大の危機にあることを本当に我々が知らなくてはならないだろうと思います。

 そういうことで今初めて、国家の問題あるいは歴史の問題として捉えてゆかなくてはならなくなりました。「国家」と言っても、何を守るべきかという問題。その「何」という実体を我々がしっかりと認識しなくてはならないわけで、それが政治制度の問題、あるいは日本の伝統・文化とは一体何なのかという問題を知るための知識・認識を今国民全体が早急に知らなくてはならない状況が出てきています。マスコミが今、そういう役割を放棄していますから、ぜひ皆さん自身で考えていただきたい。我々日本国史学会も、そういう実体の問題を常に追求しているわけで、そういう意味でも我々の役割というのは非常に大くなっていると思います。

 〈学問〉というものが一体何なのかという時に、それ自体がやはり政治と連動しているわけです。例えば最近、アメリカがユネスコ(国際連合教育科学文化機関)を脱退したんですね。イスラエルもこの度脱退したということなんですが、ユダヤ教の聖地があるところをパレスチナ自治区として世界遺産に登録するという、歴史認識の問題が関わっています。それでイスラエルが無視されたということにネタニヤフ首相が抗弁して、ユネスコを脱退したわけです。これは何かどこかの出来事だ、というくらいに見逃すわけにはいきません。中国がいつの間にか、南京虐殺を世界記憶遺産に登録してしまった。今になって我々は一生懸命騒いでいるんですけれども、あれもユネスコの方針でそうなっているわけです。もう一点、日本の世界記憶遺産の第一号は何かというと、三池炭鉱の炭鉱夫、いわゆる炭鉱労働者がある種虐待されているということを記録した750枚くらいのデッサンをすでに世界記憶遺産に登録しているんです。こういうことをユネスコが平気でやっているわけですから、明らかに歴史を歪曲しているわけで、本来日本はユネスコを脱退するぐらいのことをしなくちゃいけないんです。どうもそういう空気が出てこないというのは、やはりそれだけ日本の国家観や日本の歴史に対するインパクトがないわけです。我々は常に、国際的な問題としてこういうことがあるんだということを抗弁してゆかなければならなりません。

 最近、山下英次先生が事務局長、私が代表となって「不当な日本批判を正す学者の会」というのを立ち上げまして、基本的に英語で具体的にどんどん抗議していく。そして我々の歴史の実態を国際的に示さなくてはいけない、そういうことをやる決意でいるわけです。決して「学問」だから閉じこもっていていいわけはなくて、それ自体が非常に重要な政治的問題にもなっているのです。幸い、今そういう気運が高くなってきています。我々も緊張感をもって、学問というものもまた同じように緊張感をもってやらなきゃいけないというふうに思っています。

平成29年10月14日:当会代表理事/東北大学名誉教授 田中英道