代表理事 平成30年2月のごあいさつ

2018年2月10日収録分代表挨拶

 冬季オリンピックが開かれています。一方で、北朝鮮問題がどう展開するかというのは、一般でもなかなか難しい展望になってきました。これは政治と歴史の一つの齟齬というか、戦争というものが北朝鮮の周りに立ち込めて、軍事パレードが一方で開かれながら、一方でオリンピックが開かれるという、〈平和〉と〈戦争〉というのがある意味非常に見事に両立しているかのごとく見えます。朝鮮半島が我々日本人にとって非常に関わりがあるわけで、これをどう見るかという事は、単にアジアの国といっても、もちろんアメリカも関わっているわけです。アメリカの動きというのをどういう風に見ているかという問題ですね、このことはさらにユダヤの問題が関わってくるのを皆さんもご存じだと思います。結局クシュナーの動きが結果としてどういう風に出てくるかが具体的に決まっていくと思います、トランプ政権の閣僚のほとんどはユダヤ人によって占められています。ですから日本の新聞はアメリカが、あるいはトランプ政権が一枚岩であるように見ているわけですが、そうではありません。オリンピックの後、非常に問題になってくると思います。

 それから、西部邁さんの自裁を受けて一言。やはり私は、いわゆる「近代保守」が非常に危険だと思います。これはどういうことかというと、結局日本は天皇をはじめとして、あらゆることが伝統と文化の中で連綿と続いて生きている。ですからキリスト教徒が1%もいないんです。これだけ近代化してみんな西洋人みたいな顔してるくせに、キリスト教徒が1%もいないというのは、日本人そのものの強さによるものなのです。これを認識できなければ、知識人はダメに決まってるじゃないですか。このことがないと、日本人として生きられっこないんです。戦後はあらゆるところでキリスト教が入り込んで、GHQが美智子妃殿下もキリスト教徒にして皇室をキリスト教化しようとしたわけです。それでも誰もならないし、なっても本格的なキリスト教徒は誰もいないんです。そういうことがやはり「日本人である」ということなのです。そのこと自体が神道であり、神仏習合であるという話に関わってくるわけで、これを知らないで日本というものは分からないのです。明治以降が日本の本当の姿だと思ってしまうと、それは西洋のマネでしかないんです。キリスト教徒が1%しかいないというのは、実はマネをしていないということじゃないですか。根本的なものは何もマネしていないのです、マネできないんです。マネできないということが大事なことなんです。それが日本の強さでもあるし、世界的な日本の価値でもあるわけです。そこからそれが何なのかと考え、積極的に肯定してゆかないと日本の本当の姿というのは分かりっこないじゃないですか。だから私は『万葉集』を読めと言っているんです、『万葉集』がすでに8世紀に出ている。仏像を見なさい、というのもそれなんです。あらゆる芸術には日本の良さが出ています。

 近代だけを扱っている「保守派」は危ないです。これは自分を失ってしまうし、マネしているのですから西洋の方がいいに決まっています。それで大学はそれをマネした、マネをした学問をやっているから今は人文学者が全然ダメになった。国文学者しか、あるいは国史学者しか書けないという状態になってきているという風に見ています。

平成30年2月10日:当会代表理事/東北大学名誉教授 田中英道