代表理事 平成30年7月のごあいさつ

2018年7月14日収録分代表挨拶

 今年はフランスのパリで「ジャポニズム2018」という大きなイベントを、力を入れてやっています。そのパリが、日本の文化のさまざまな行事で喜んでくれるだろうと思います。今、日本は人気があります。日本の文化というのが非常に注目されていまして、漫画とか単なるファッションも含めて日本の文化の特色というものをどう摑むかという問題で重要な時期にさしかかっていると思います。これは、基本的に「西洋の没落」ということがあります。ちょうど100年前にシューペングラーという人が『西洋の没落』という本を書きました。たくさんの移民によって、西洋の没落が如実に表れてきたということがお分かりになると思います。サッカーを一生懸命見ている方も多いと思いますけども、ベルギーにせよフランスにせよ、みんなアフリカや中東の選手です。日本がベルギーと戦った時に、最初2点取った後、向こうが点を入れてきた。点を入れた2人か3人はアフリカ人選手で、ベルギー人だけだったらおそらく日本人は勝ったと思います。そのことが、西欧の今の状態というものを如実に表している。非難するわけではありません。やはり、これは西洋の没落という事を非常に感じさせるわけです。ですからパリに行っても北駅、東駅あたりは中東の人たち、あるいは外国人で占められています。もちろんこういう事はグローバリゼーションの間に、フランスという文化、フランスという伝統をかなぐり捨てると言うことが、これは戦後のフランスのひとつ特徴になっています。私は1968年にパリにいたのですが、やはりそういうことを意図的にやろうじゃないか。伝統と文化を壊していくということが、非常に現代風のものである。

 中国の文化大革命ですが、「文化」という意味がいまだに謎なのです。あれは文化を破壊する革命だったのです。だから徹底的に儒教あるいは彼らの伝統的な道教や様々な文化を、あるいは大学の先生まで引きずり出して中国文化を断絶させるような動きに出たのです。その後、私は東北大学にいたんですけれども、かなりの数の彼らの子弟が日本にきて、自分の父親が捕まって地方に農民として行かされてしまったというような事を聞いています。

 つまりこういう事態というのが1970年以降、特に68年以降ですけれども、特に世界中に起こったということです。皆さんは大体、文化というものはそれほど政治的な対象にならないということでお過ごしになっていると思います。文化というのは別問題である、あるいは単なる余裕の問題だろうということで深刻に考えない。政治家もそういう風に思っている。しかしですね、これが徹底的にやられたのです。このことが今になって、なぜか今までの歴史や文化を身につけていたはずが、何か全部擦り落ちてしまって俺は何も知らないじゃないかと気づき始めるようなことが起きつつあります。大体、人間というのはそういうことへの関心をみんな持っています。ですから毎日お祭りがあればお祭りに行くし、イベントがあれば参加する。そしてそういう文化的な興味というか、そういうものをいつも持っている。みなさんの中にも、和歌や俳句をお作りなったりする方もいらっしゃると思います。毎日一生懸命稼ぐということと別個にあって、それらの全体が人間であるということを、みなさんもお分かりになっていると思います。今はもうそういうことが、ある意味で不可能になっている。つまりそういうことをやるのが、単なる暇とお金の問題だというだけになってしまった。しかし実を言うと、そこを左翼が狙ったのです。皆さんがそういうことになるように意図していた。文化やあらゆる人間性、あるいは旅先で出会う歴史の中の人間性ですね。そういうことに接する喜びというものが本来の人間のあり方なのです。そういうことを戦後、徹底的に潰しにかかった。ですから、例えば新しいカフェなどではほとんど装飾の空虚な都市空間を作っている。そしてそれが、世界中にあるわけです。つまりそういう空虚な文化というものが蔓延していて、日本ではそれほど意図的な感じを受けないのですが、世界的に空虚な方向に向かわせる文化運動が密かに行われているわけです。このことに気が付かないと、みんな歴史を忘れさせるようになってしまう。だから、かつて我々も歴史教科書の運動をやり始めたわけです。

平成30年7月14日:当会代表理事/東北大学名誉教授 田中英道